こんにちは!
SAPのプロジェクトや実務に携わり始めたばかりのとき、会議や資料で以下のような会話を耳にしてフリーズした経験はありませんか?
- 「あの案件、POは立ってるけどGRがまだだから、今月のIVに間に合わないかも」
- 「営業側でSOの数量変更があったから、DNを切り直してGIのタイミング調整して!」
「アルファベット3文字の呪文が多すぎて、何が何だか分からない……」と頭を抱えたくなる気持ち、よく分かります。
実は、S/4HANAの物流(ロジスティクス)プロセスの大半は、「モノを買う流れ(MM)」と「モノを売る流れ(SD)」の2つに集約されます。そしてこれらは、最終的にすべて「会社のお金の動き(FI:財務会計)」へと合流します。
一見複雑に見えるこれらの略語やトランザクションコード(T-Code)ですが、「調達(左ルート)」と「販売(右ルート)」を左右で対比させながらセットで学ぶと、驚くほどスッキリ構造が理解できるようになります。
今回は、これ1本読めばS/4HANAのロジ➔会計のつながりがすべて繋がる「完全バイブル」として、必須の略語や実務フロー、T-Codeの違いを徹底的に解説します!
S/4HANAの2大基本フローを俯瞰する
まずは細かい用語に入る前に、会社を中心とした「お金とモノの動き」を俯瞰してみましょう。ビジネスの基本は、以下の2つのルートしかありません。

- 【左ルート】お金が出ていく「MM(購買・調達)プロセス」仕入先からモノを買い、倉庫に受け入れ、請求書をチェックして代金を支払う流れ。
- 【右ルート】お金が入ってくる「SD(営業・販売)プロセス」顧客から注文を受け、倉庫からモノを出荷し、請求書を発行して代金を回収する流れ。
この2つのプロセスは、まるで鏡に映したかのように美しい「対比構造」になっています。
システム(S/4HANA)上でも、それぞれのステップに対応するデータが作成され、最終的に「FI(財務会計)」という1つのゴールへ集約されます。
この全体マップを頭の片隅に置いた状態で、まずは左側の「買う流れ」から詳しく見ていきましょう。
【左ルート:買う流れ】MM(購買管理)➔ FI(財務会計)の必須用語
モノを調達して代金を支払うまでのプロセス(Procure to Pay)です。実務では以下の4つのステップと略語が毎日使われます。
1. 約束:PO(Purchase Order / 購買発注):T-Code: ME21N。
仕入先(ベンダー)に対して、「この商品を、この単価で、何個買います」という意思表示をするステップです。
システムにPOを登録することで、今後の「入庫数量」や「請求金額」をチェックするためのすべての基準(マスターデータ)が確定します。
2. モノ:GR(Goods Receipt / 入庫):T-Code: MIGO。
発注した商品が自社の倉庫に届き、検収を行ってシステムに「確かに受け取りました」という実績を登録するステップです。
GRを行うことで、システムの在庫数量がプラスされ、社内の資産が増えます。
3. お金:IV(Invoice Verification / 請求書照合):T-Code: MIRO / MIR7。
取引先から紙やPDFで請求書(Invoice)が届いた際、システムに登録するステップです。
先述の「PO(発注の約束単価)」と「GR(実際の受取数量)」を、届いた請求書の内容とガッチャンコして突き合わせ、金額にズレがないかを検証(Verification)します。
問題がなければ「転記(確定)」を行います。
4. 会計:AP(Accounts Payable / 買掛金):T-Code: F110。
請求書照合(IV)が完了すると、自動的に経理(FI)領域へデータが回ります。
まだお金は払っていませんが、「支払う義務」である**AP(買掛金)**が確定します。
その後、期日になったら自動支払プログラム(F110)などを使って銀行振込を行い、プロセスが完了します。
MM領域のプラスアルファ必須用語
- PR:Purchase Requisition(購買依頼) 【T-Code:
ME51N】購買部が外に発注(PO)をかける前段階で、社内の各部署(例:製造部や総務部)が「これが必要だから買って!」と出す社内申請のことです。 - SES:Service Entry Sheet(サービス受入シート) 【T-Code:
ML81N】部品などの「モノ」ではなく、システムの開発保守やコンサルティング、オフィスの清掃といった「サービス(労働・役務)」を提供してもらった際に、GR(入庫)の代わりに「作業を検収しました」という実績を登録する画面です。
【右ルート:売る流れ】SD(販売管理)➔ FI(財務会計)の必須用語
次に、右側の「モノを売って代金を回収する」プロセス(Order to Cash)を見ていきましょう。MM(購買)の流れと綺麗に対比させながら追いかけると、簡単に覚えられます。
1. 約束:SO(Sales Order / 受注):T-Code: VA01。
顧客から「これをこれだけ売ってください」という注文(Order)を受け、システムに登録するステップです。MMの「PO(購買発注)」の真逆であり、「いくらで何個売るか」というすべての取引基準になります。
2.出荷指示:OBD / DN(Outbound Delivery / Delivery Note):T-Code: VL01N。
受注(SO)に基づき、倉庫に対して「この商品を発送する準備をしてください」と出す出荷指示データです。
実務ではOBD(出荷指示)やDN(出荷伝票)という言葉が飛び交いますが、基本的には同じ「発送手続きのための書類」と捉えて問題ありません。
3.モノ:GI(Goods Issue / 出庫):T-Code: VL02N。
トラックに荷物を積み込み、商品が自社の倉庫から実際に旅立っていった実績を登録するステップです。MMの「GR(入庫)」の真逆の動きであり、システム上の自社在庫がマイナスされます。
4.お金:Billing / Invoice(請求):T-Code: VF01。
顧客に対して「商品を送ったので、代金を支払ってください」と請求書を発行するステップです。SAP実務ではこれを「Billing(ビリング)」と呼ぶことが多いですが、英語の「Invoice」と同じ意味です。ここで自社の「売上」がシステム上に計上されます。
5.会計:AR(Accounts Receivable / 売掛金):T-Code: FB01 / F-28など。
請求(Billing)を行うと、自動的に経理(FI)領域へデータが連携され、まだ回収していない代金である**AR(売掛金)**が計上されます。
後日、顧客から銀行口座にお金が振り込まれたら、そのARを消し込む(回収済みにする)ことで、すべての販売プロセスが完了します。
【一葉一対】MMとSDを「対比」で脳内に焼き付ける完全比較表
バラバラに覚えると混乱するこれらの用語ですが、1つの表にまとめると非常に美しい対比になっていることが分かります。ぜひこの表を頭の中にスクリーンショットして保存してください!
| 業務ステップ | 【左ルート】MM(調達・購買) | 【右ルート】SD(営業・販売) | 動きの本質・違い |
| 1. 契約・約束 | PO (Purchase Order) T-Code: ME21N | SO (Sales Order) T-Code: VA01 | 買う約束(調達) vs 売る約束(受注) |
| 2. モノの移動 | GR (Goods Receipt) T-Code: MIGO | GI (Goods Issue) T-Code: VL02N | モノが入る(在庫プラス) vs モノが出る(在庫マイナス) |
| 3. 請求の手続き | IV (Invoice Verification) T-Code: MIRO / MIR7 | Billing / Invoice T-Code: VF01 | 届いた請求書をチェックする vs 請求書を発行して送る |
| 4. 会計(FI)の姿 | AP (Accounts Payable) T-Code: F110(支払) | AR (Accounts Receivable) T-Code: 決済・消込 | あとで払う義務(買掛金) vs あとでもらう権利(売掛金) |
実務で「あれ、GIってなんだっけ?」となったら、「GR(入庫)の逆だから、SD側の出荷(出庫)のことか!」と連想できるようになれば、もう初心者卒業です!
ステップアップ:ロジから会計(FI)にデータが切り替わる「トリガー」
ここからは、少し踏み込んだ「コンサルタント・エンジニア目線」の解説をします。
ここを理解しておくと、実務でのトラブルシューティングや経理担当者との会話が劇的にスムーズになります。
物流(MM・SD)のデータが、どのタイミングで「会計(FI)のお金の仕訳」として裏側で動き出すのか、その2大トリガーを押さえましょう。
【MM側】GR(入庫)とIV(請求書照合)のタイミング
MM側では、なんと「モノが届いた瞬間(GR)」に最初の会計仕訳が発生します。
- GR(入庫)の瞬間:モノが届いたので、自社の資産として「在庫」が増えます。
しかし、この時点ではまだ取引先から請求書が届いていません。
そのため、システムは裏側で「GR/IR(入庫/請求仮勘定)」という一時的な“仮のポケット”に「近々請求書が来るはずの未払分」を計上します。- 仕訳イメージ:
(借) 在庫勘定 10,000 / (貸) GR/IR勘定 10,000
- 仕訳イメージ:
- IV(請求書照合)の瞬間:その後、正式に請求書が届いて
MIROなどで登録すると、先ほどの“仮のポケット(GR/IR)”が綺麗にクリアされ、正式な「買掛金(AP)」に振り替わります。- 仕訳イメージ:
(借) GR/IR勘定 10,000 / (貸) 買掛金勘定 10,000
- 仕訳イメージ:
【SD側】GI(出庫)とBilling(請求)のタイミング
SD側では、「モノが出ていった時」と「請求書を出した時」の2段階で、それぞれ異なる目的の会計仕訳が立ち上がります。
- GI(出庫)の瞬間:モノが手元から離れて顧客に引き渡されるため、自社の「在庫」資産が減ります。
それと同時に、会計側ではその商品の仕入れにかかったコストである「売上原価(COGS)」が計上されます。
この時点では、まだ売上そのものは立ち上がっていません。- 仕訳イメージ:
(借) 売上原価勘定 7,000 / (貸) 在庫勘定 7,000
- 仕訳イメージ:
- Billing(請求)の瞬間:顧客に対して請求書を発行したタイミングで、初めて会社としての「売上」が立ち上がり、同時に代金を請求する権利である「売掛金(AR)」が計上されます。
- 仕訳イメージ:
(借) 売掛金勘定 10,000 / (貸) 売上高勘定 10,000
- 仕訳イメージ:
このように、S/4HANAのシステムは、現場の人が「倉庫にモノを出し入れした(MIGO, VL02N)」「請求書を処理した(MIRO, VF01)」という操作を行うのをトリガーにして、裏側でリアルタイムに経理の仕訳帳を自動で書き換えているのです。
これが、SAPが世界中の大企業で愛用されている最大の強みでもあります。
まとめ:明日からの実務に活かせるチートシート
最後に、今回登場したすべての重要用語をいつでも見返せるように、スッキリ1つにまとめました。
- MM(調達)の基本3点セット:
PO(発注: ME21N) ➔GR(入庫: MIGO) ➔IV(請求書照合: MIRO) - SD(販売)の基本3点セット:
SO(受注: VA01) ➔GI(出庫: VL02N) ➔Billing(請求: VF01) - 経理へ繋がる2大債権・債務:
AP(買掛金:あとで払うお金) &AR(売掛金:あとでもらうお金)
最初は「英語の略語ばかりで呪文のようだな……」と感じるかもしれませんが、ビジネスの本質である「お金を払ってモノを買う」「モノを売ってお金をもらう」というシンプルな流れに当てはめれば、驚くほど簡単に整理できます。
実務の会議で単語に迷ったら、ぜひこの記事の比較表を見返してみてください。

コメント