はじめに|「これ、どこで設定するの?」となっていませんか?
S/4HANA Public Cloudをはじめて触ると、
多くの人がまずここで戸惑います。
- SPROが見当たらない
- SE11やSE16Nが使えない
- トランザクションコードを入れても何も起きない
「Public Cloudって、結局なにもできないのでは?」
そんな不安を感じる方も少なくありません。
でも実際には、S/4HANA Public Cloudの中だけでも、できることは意外と多いです。
ただし前提として、これまでのECC/Private Cloudとは
考え方を少し切り替える必要があります。
S/4HANA Public Cloudの大前提
S/4HANA Public Cloudでは、
- SAP GUIは使わない
- 設定・拡張は Fioriアプリが中心
- 「トランザクションコード」ではなく
「どのFioriアプリを使うか」 で考える
という世界観になっています。
つまり、
❌「この設定はT-code何?」
⭕「この設定はどのFioriアプリ?」
という発想への切り替えが重要です。
Public Cloudの拡張レイヤーを整理
Public Cloudでは、拡張の方法や役割が明確にレイヤー分けされています。
「できる/できない」を判断するうえでも、まず全体像を押さえておくことが重要です。
拡張レイヤー全体像
S/4HANA Public Cloudでは、
拡張は「できる/できない」ではなく、
どのレイヤーで対応するかによって整理されています。
Public Cloudの拡張は、大きく 4つのレイヤー に分かれます。
拡張レイヤー全体像
| レイヤー | 主な役割 | 想定利用者 |
|---|---|---|
| UI Adaptation | 画面の表示・必須制御 | 業務/IT |
| In-App Extensibility | 項目追加・軽いロジック | IT/キー・ユーザー |
| Developer Extensibility | ABAPによる拡張(制限付き) | 開発者 |
| BTP(Side-by-Side) | WF・外部連携・高度処理 | 開発者 |
この記事では、
👉 「BTPは使わず、S/4の中だけで完結させたい」
という前提で、
- UI Adaptation
- In-App Extensibility
- Developer Extensibility
までを 「S/4の中だけでできること」 として整理します。
拡張レイヤー概要
① UI Adaptation
- 画面の表示/非表示
- 必須/任意制御
- 並び替え
👉 業務ユーザー主体でも対応可能
👉 データ・ロジックには触れない
② In-App Extensibility
- 標準/カスタム項目追加
- 保存時チェック(制限付きBAdI)
- 初期値セット
- エラーメッセージ定義
- 帳票・分析との連携
👉 最初に検討すべき拡張手段
③ Developer Extensibility
- ABAP Cloudによる拡張
- 公開API/CDS Viewを使った処理
- In-Appでは難しいロジックの補完
👉 「S/4の中だけで完結させたい」場合の最終手段
👉 BTPに行く前のワンクッション
S/4HANA Public Cloudで「S/4の中だけ」でできること
① 標準項目・カスタム項目の追加
使うFioriアプリ
- Custom Fields and Logic
できること
- 受注、得意先、仕入先などへの項目追加
- 画面表示、DB保存
- 検索条件・帳票・分析・APIへの連携(対応範囲内)
ECCでいうと、
SE11でAppendを作っていた感覚に一番近いですが、
直接テーブルを触ることはありません。
② 画面(UI)の調整
使うFioriアプリ
- Adapt UI
できること
- 項目の表示/非表示
- 必須/任意の制御
- 項目の並び替え、グルーピング
「入力しない項目が多くて画面がごちゃごちゃ」
という課題は、これだけでもかなり解消できます。
③ チェック・軽いロジックの追加(制限付きBAdI)
使うFioriアプリ
- Custom Fields and Logic(カスタムロジック)
いわゆる 制限付きBAdI です。
できること
- 保存時の入力チェック
- 条件に応じたエラー/警告表示
- 初期値の自動セット
- 組織(会社コード/プラント)単位の制御
できないこと
- 標準処理の置き換え
- 複雑な業務ロジック
👉 「止める」「チェックする」「補助する」が基本です。
④ エラーメッセージ・警告メッセージの定義
使うFioriアプリ
- Define Custom Messages
できること
- 業務向けのエラーメッセージ作成
- 日本語・英語など多言語対応
- エラー/警告の切り替え
Public CloudではSE91は使えませんが、
業務メッセージはきちんと定義できます。
⑤ 帳票・出力の調整
使うFioriアプリ
- Manage Forms
- Output Parameter Determination
できること
- 請求書・納品書のレイアウト調整
- 文言変更、ロゴ差し替え
- カスタム項目の帳票出力(対応範囲内)
SmartFormsやSAPscriptは使いませんが、
日常業務で必要な帳票調整は十分対応できます。
⑥ 分析・レポート
使うFioriアプリ
- Custom Analytical Queries
- View Browser
できること
- 標準分析を使った一覧・集計
- カスタム項目を含めた分析
- CDS Viewの構造確認(参照のみ)
SE16Nでデータを直接見る代わりに、
「業務オブジェクトとして安全に見る」 という考え方になります。
⑦ ワークフロー(S/4内で完結する範囲)
使うFioriアプリ
- Manage Workflows for ○○
できること
- SAPが用意している業務の承認WF調整
- 条件・承認者・ステップの変更
注意点
- 対象業務はSAPが提供しているもののみ
- 完全オリジナルWFは不可
⑧ 権限・ロール管理
使うFioriアプリ
- Maintain Business Roles
できること
- 業務ロール定義
- アプリ単位の利用制御
- 業務別の画面体験最適化
PFCGは使わず、
「ロール × Fioriアプリ」 で管理します。
S/4の中だけでできること一覧
| 分類 | できること | イメージしやすい例 |
|---|---|---|
| 項目拡張 | 標準オブジェクトへの項目追加 | 受注に「社内管理フラグ」を追加する |
| UI調整 | 画面の表示・必須・並び替え | 入力しない項目を非表示にして画面を簡素化 |
| チェック | 入力チェック・制御 | 特定プラントではフラグをONできないようにする |
| メッセージ | エラー/警告文言の定義 | 「この条件では登録できません」と業務向けに表示 |
| 帳票 | 帳票レイアウト・文言調整 | 請求書に会社ロゴや補足文言を表示 |
| 分析 | 一覧・集計・可視化 | 承認対象フラグ別に受注件数を確認 |
| WF | 標準承認フローの調整 | 一定金額以上の申請のみ承認を必須にする |
| 権限 | ロール・利用範囲管理 | 業務担当者には閲覧のみ許可する |
S/4の中だけでは難しいこと(線引き)
あらかじめ知っておきたいポイントです。
- 独自テーブルを使った業務ロジック
- 複雑な条件分岐を持つ業務フロー
- SAP標準に存在しない新規WF
- 他システムとの高度な連携
これらは BTPの利用、または業務見直し が必要になります。
まとめ|Public Cloudでは「どこでやるか」がすべて
S/4HANA Public Cloudでは、
- トランザクションコードは使わない
- テーブルを直接触らない
- Fioriアプリ単位で考える
という前提を受け入れることが、成功への近道です。
「S/4の中だけ」でも、
- 項目追加
- 画面調整
- チェック
- 帳票
- 分析
- 標準WF
と、業務に必要な調整は一通り対応できます。
まずは
「S/4の中でどこまでできるか」を正しく理解すること。
それが、Public Cloud導入をスムーズに進める一番のポイントです。

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