「SAP Public Cloud、正直ちょっと怖くない?」
「SAP Public Cloudって、自由に触れないんですよね?」
「アドオンできないって聞きました」
「勝手にアップデートされるのが怖いです」
最近、こんな声を聞く機会が増えました。
SAP S/4HANA Cloud Public Edition(以下、SAPパブリッククラウド)は、SAPが明確に“次の主軸”として打ち出しているソリューションです。一方で、現場のコンサルタントや情シス担当者からは、どこか警戒されている存在でもあります。
なぜ、ここまで「怖い」と言われるのでしょうか。
本記事では、SAPパブリッククラウドについて
- 制約はどこにあるのか
- カスタマイズは本当にできないのか
- 運用は実際どう変わるのか
という3つの観点から、「イメージ」ではなく現実ベースで整理していきます。
そもそもSAPパブリッククラウドとは何か
SAPパブリッククラウドは、SAPが提供・運用までを担うS/4HANAのクラウド版です。
オンプレミスやプライベートクラウドと最も大きく異なるのは、
システムの主導権がSAP側にあるという点です。
- インフラはSAP管理
- バージョンアップは定期的に自動適用
- 基本は標準プロセス前提
これまでのSAPは「お客様の業務にSAPを合わせる」世界でした。
一方、SAPパブリッククラウドは「SAPの標準に業務を寄せる」ことを前提としています。
この思想の違いを理解しないまま触ると、確かに「怖い」と感じるのも無理はありません。
【制約編】何ができなくて、何を割り切る必要があるのか
「制約が多い」は本当か?
SAPパブリッククラウドには制約があります。
ただし、それは「何もできない」という意味ではありません。
よくある誤解は、
アドオン=全面禁止
というイメージです。
実際には、コアを汚さないことが求められているだけです。
実際にできないこと
SAPパブリッククラウドで明確に制限されているのは、以下のような領域です。
- コアプログラムの直接改修
- Zテーブルを前提とした独自業務ロジック
- 標準トランザクションの大幅な画面改修
これまでオンプレ案件で当たり前に行われていたことが、ここでは通用しません。
制約は「悪」なのか?
ただ、この制約を「不自由」とだけ捉えるのは少しもったいない気がします。
オンプレ時代を振り返ると、
- なぜ存在するのかわからないアドオン
- 仕様書もなく、誰も触れないZプログラム
- 業務改善ではなく“過去の踏襲”のためのカスタマイズ
こうした負債を抱えているシステムは少なくありません。
SAPパブリッククラウドの制約は、SAP側から突きつけられた強制的な整理整頓とも言えます。
【カスタマイズ編】それでも、どこまでできるのか
「カスタマイズ不可」は誤解
SAPパブリッククラウドでは、In-App Extensibilityと呼ばれる拡張手段が用意されています。
- フィールド追加
- ビジネスルールの定義
- フォームや帳票の調整
いわゆるKey User拡張と呼ばれる領域で、日常業務に必要な調整は十分に可能です。
本当の拡張ポイントはBTP
さらに重要なのが、SAP BTP(Business Technology Platform)の存在です。
SAPパブリッククラウドでは、
「中をいじる」のではなく「外で拡張する」
という設計思想が徹底されています。
- 独自ロジックはBTP側で実装
- SAP本体はクリーンに保つ
- アップデート耐性を確保する
いわゆるクリーンコアの考え方です。
向いているカスタマイズ・向いていないカスタマイズ
向いているのは、
- 周辺業務
- 独自の業務フロー
- SAP外との連携処理
一方、向いていないのは、
- FIやMMなどコア業務の作り替え
- 標準を無理やりねじ曲げる設計
ここを見誤ると、「SAPパブリッククラウドは使えない」という結論に簡単にたどり着いてしまいます。
【運用編】一番怖いのはアップデート?
定期アップデートの現実
SAPパブリッククラウドでは、年数回の定期アップデートが行われます。
「勝手に変わる」という表現は半分正しく、半分は誤解です。
事前にリリースノートは公開され、影響確認の期間も設けられています。
ただし、「アップデートをしない」という選択肢はありません。
運用が楽になる点、しんどくなる点
楽になるのは、
- BASIS作業
- インフラ管理
- バージョンアップ作業そのもの
一方で、しんどくなるのは、
- 業務影響の説明
- ユーザーへの周知
- 標準変更への対応判断
つまり、技術作業は減るが、調整と説明は増えるという構図です。
情シス・コンサルの役割の変化
SAPパブリッククラウドでは、
- 作る力
よりも - 業務を理解し、選択肢を示す力
が求められます。
これは、コンサルタントにとっては厳しくもあり、同時に価値が上がるポイントでもあります。
結論|SAPパブリッククラウドは本当に「怖い」のか
結論として、SAPパブリッククラウドは
誰にとっても万能な解ではありません。
向いていないのは、
- 業務が属人化している企業
- 既存アドオンを捨てられない企業
向いているのは、
- 業務を標準に寄せる覚悟がある企業
- スピードと将来性を重視する企業
SAPパブリッククラウドは、「楽な選択肢」ではなく、覚悟のいる選択肢です。
おわりに|それでもSAPがパブリッククラウドを推す理由
それでもSAPが、ここまで強くパブリッククラウドを推すのには理由があります。
- 技術進化のスピード
- 保守コストの最適化
- グローバル標準への集約
この流れは、おそらく止まりません。
だからこそ私たちは、
「怖いから避ける」のではなく、
何が怖いのかを理解したうえで選ぶ必要があるのだと思います。
次回は、
「SAPパブリッククラウドはどんな企業・どんな人に向いているのか」
もう一段踏み込んで整理してみたいと思います。

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