はじめに
以前、本ブログではSAPのBDC(Batch Data Communication)について解説する記事を書きました。BDCは大量データ登録や業務処理を効率化するための仕組みですが、その中で「登録したデータをどう分析し、意思決定につなげるか」という点には深く触れていませんでした。
SAPシステムでは、**処理(トランザクション)と分析(意思決定)**は明確に役割が分かれています。本記事では、その「分析」を担う代表的な製品である SAP Analytics Cloud(以下SAC) について、
- 何ができるのか
- 逆に、何はできないのか
- SAP全体の中でどんな立ち位置なのか
を整理しながら解説していきます。
SAP Analytics Cloud(SAC)とは何か
SACは、SAPが提供するクラウド型の分析・計画・予測プラットフォームです。最大の特徴は、「分析(Analytics)」「計画(Planning)」「予測(Predictive)」という3つの領域を、1つのクラウドサービスで提供している点にあります。
従来のSAPでは、
- 分析はBWやBO
- 計画はBPC
といったように、用途ごとに製品が分かれていました。SACはそれらを統合し、S/4HANA時代の中核的な分析基盤として位置づけられています。
クラウド前提のため、インフラ管理の負担が少なく、SAP公式の戦略製品として継続的に機能拡張が行われている点も重要なポイントです。
SACでできること①:可視化・分析(Analytics)
SACの最も基本的な使い方が、データの可視化・分析です。
S/4HANAやBWなどから取得したデータをもとに、ダッシュボードやレポート(SACでは「ストーリー」と呼ばれます)を作成できます。
KPIをグラフやチャートで直感的に把握でき、ドリルダウンやフィルタ操作によって、部門別・期間別・製品別といった切り口で分析を深めることが可能です。
操作感はExcelに近い部分もありますが、属人化しやすいExcel管理とは異なり、全社で同じ指標・定義を共有できる点が大きな違いです。経営層向けのサマリーから、現場向けの詳細分析まで、同じ基盤上で提供できます。
SACでできること②:計画・予算管理(Planning)
SACは単なるBIツールではなく、計画・予算管理までカバーできる点が特徴です。
年度予算や月次見込、ローリングフォーキャストなどをSAC上で管理し、部門ごとの入力・集計・承認フローを一元化できます。Excelベースの予算管理でありがちな、「最新版が分からない」「集計に時間がかかる」といった課題を解消できます。
計画データと実績データを同じ画面で比較できるため、差異分析から次のアクション検討までをスムーズにつなげられる点も強みです。
SACでできること③:予測・シミュレーション(Predictive)
SACには、将来予測やシミュレーションを行うための予測機能も用意されています。過去データをもとにしたトレンド予測や、「売上が〇%伸びたら利益はどうなるか」といったWhat-if分析が比較的簡単に行えます。
いわゆる高度なデータサイエンス用途というよりは、業務で使える現実的な予測機能という位置づけです。計画業務や経営判断の補助として、十分に実用的なレベルといえるでしょう。
他製品と比較して「SACではできないこと」
ここまで見ると、SACは非常に多機能なように感じられますが、「できないこと」を理解しておくことも重要です。
まず、トランザクション処理はできません。伝票登録やマスタ更新など、業務そのものを実行する役割はS/4HANA側にあります。BDCで行っているような大量登録処理とは、完全に別レイヤーの製品です。
また、SACはフル機能のDWHではありません。大規模なデータ統合や複雑なETL処理は、BWやBTP側で行う必要があります。「SACにデータを入れれば何とかなる」という考え方は誤解です。
さらに、TableauやPower BIのような自由度最優先のBIツールとも思想が異なります。SACはSAP業務データとの親和性を重視して設計されているため、SAPを使っていない企業ではメリットが出にくい場合もあります。
SACとS/4HANA・BTPとの関係
SACは単体で使うものではなく、S/4HANAやSAP BTPと組み合わせて価値を発揮します。
S/4HANAとは、リアルタイムでデータを参照するLive接続や、データを取り込むImport方式で連携できます。Embedded Analyticsが「業務画面内の分析」だとすれば、SACは横断的・経営視点の分析を担う存在です。
BDCなどで登録・更新されたデータはS/4HANAに蓄積され、最終的にSACで可視化・分析される。この役割分担を理解すると、SAP全体の構造が見えやすくなります。
SACはどんな企業・業務に向いているか
SACは特に、以下のような領域に向いています。
- 経営管理・FP&A
- 事業部単位のKPI管理
- 全社横断のデータ可視化
一方で、単純な帳票出力だけが目的の場合や、SAPをほとんど使っていない企業では、オーバースペックになる可能性もあります。
導入時によくある誤解・注意点
よくある誤解として、「SACを入れれば自動的に分析できるようになる」というものがあります。実際には、データ設計や指標定義が8割といっても過言ではありません。
また、「SACがあればBWは不要」という議論もありますが、役割は明確に異なります。PoCなどを通じて、期待値を正しく調整することが重要です。
まとめ
SACは、SAPにおける「意思決定」を支えるための中核的な分析基盤です。万能ツールではありませんが、S/4HANAやBDCと適切に組み合わせることで、大きな価値を発揮します。
「何ができるか」だけでなく、「何を任せるべきでないか」を理解した上で導入・設計することが、SAC活用の第一歩といえるでしょう。
※本記事は2025年12月時点の情報です。最新情報は公式サイトをご確認ください。


コメント