はじめに
AIによる業務支援が当たり前になりつつある現在、
SAPが提供する生成AIアシスタント「Joule(ジュール)」が大きな注目を集めています。
Jouleは、SAPの業務アプリケーションに自然に統合されたAIコパイロットであり、
業務ユーザーが複雑なシステム操作を行わなくても、
自然言語で質問や指示をするだけで必要な情報を取得したり、
処理を実行できるのが特徴です。
従来はSAPのトランザクションや専門知識を持つ人に頼らざるを得なかった業務が、
Jouleの導入によって大きく変わろうとしています。
本記事では、用途別/対象ユーザー別エディションを中心に、
実際の活用シナリオや他ERPとの比較、拡張機能まで徹底解説します。
Jouleの基本コンセプトと提供形態
- 自然言語での操作:SAPアプリケーションに埋め込まれたチャット形式でやり取り可能
- クラウド統合:S/4HANA Cloud Public/Private Editionに標準搭載
- 拡張性:SAP Business Technology Platform(BTP)と連携しカスタマイズやAI拡張が可能
つまり、業務ユーザーからコンサルタント、開発者まで、
SAP利用者全体をサポートするプラットフォーム的な位置づけを持ちます。
用途別/対象ユーザー別エディションモード
汎用AIコパイロット(SAPアプリ全体統合型)
もっとも幅広く利用されるのが、業務ユーザー向けの汎用コパイロットです。
特徴
- 自然言語:「今月の売上トップ5商品を教えて」「特定仕入先の支払状況を確認したい」
- ナビゲーション補助:複雑なTコードやメニュー操作を飛ばして、必要な画面に即ジャンプ
- 承認・処理の実行:請求書承認や在庫移動をチャットから実行可能
- 分析レポート生成:KPIや収益レポートを自動作成
実例:購買部門での利用
ある製造業の購買担当者は、従来「ME2N」などの複雑なトランザクションコードを覚えなければ、購買実績を確認できませんでした。
しかし、Jouleを導入すると「今月の主要サプライヤーごとの購買額を出して」と入力するだけでレポートが自動生成され、Excel出力まで一瞬で完了。
担当者は分析に時間を割けるようになり、数時間かかっていた集計が10分程度に短縮されました。
Joule for Consultants
コンサルタント向けに提供されるエディションです。
導入・保守フェーズで大きな価値を発揮します。
特徴
- Fit-to-Standard支援:顧客要件を入力すると標準機能で対応可能かを即座にアドバイス
- Tコード / API / CDSビュー提案:設計作業の調査工数を削減
- 設定ガイドやテストケース生成:プロジェクト文書作成を効率化
実例:Fit-to-Standardワークショップ
あるコンサルティング会社では、S/4HANA導入のワークショップでJouleを利用。
顧客の要件をその場で入力すると、Jouleが標準機能での対応可否を提示し、
必要な拡張内容を具体的に提案しました。
その結果、通常3日かかっていた要件確認作業が1日に短縮され、
顧客満足度も大幅に向上しました。
Joule for Developers
開発者向けに提供されるエディションです。
特徴
- コード生成・補完:ABAPやCAPのサンプルコードを即座に生成
- API活用支援:実装例や利用方法を提示
- エラー解析支援:エラーメッセージから解決策を提案
実例:ABAP開発の効率化
あるSIerでは、開発者がJouleに「仕入先請求書登録のBAPI呼び出し例を教えて」と質問。
するとJouleがBAPI名とサンプルコードを提示し、従来数時間かかっていた調査が数分に短縮。
開発効率の改善だけでなく、若手エンジニアの学習コスト削減にもつながりました。
オプション:拡張要素と今後の進化
Joule Agents
- 複雑な業務フローを一括自動化
例:購買依頼 → 承認 → 仕訳作成 → 支払実行までをワンクリックで完結
Joule Studio
- 企業独自のカスタムスキル作成
特殊な承認フローや業界特化業務をJouleに追加可能
今後の展望
SAPはJouleを単なるアシスタントからAIプラットフォームへ進化させる計画です。
BTPを通じた拡張が一般化し、将来的には複数システムを横断するAI自動化が現実となるでしょう。
他ERPソリューションとの比較
生成AIコパイロットはSAPだけでなく、他社ERPにも導入が進んでいます。
- Oracle Cloud ERP – Oracle Digital Assistant
チャット形式での操作支援が可能。
ただし業務横断性やSAP特有のトランザクションレベル統合はJouleの方が強い。 - Microsoft Dynamics 365 – Copilot
Power Platformと連携しやすく、文書生成やCRM連携が強み。
ただし会計・SCMといったERP基幹領域での標準機能統合はSAPの方が深い。 - Workday – Workday AI
HR分野に特化し、人事業務の効率化に強み。
SAP Jouleは人事に加えて財務・購買・製造などERP全体をカバーできる点で差別化される。
まとめると、他社は特定領域や周辺システム連携に強みがある一方、
SAP Jouleは「ERP全体を横断する生成AIアシスタント」としての網羅性が特徴です。
コンサルタント・業務ユーザーが今から準備すべきこと
- プロンプト設計:自然言語指示を的確に出せるスキル
- 業務フロー理解:Jouleを効果的に活用するために必須
- BTP知識の習得:拡張やカスタムエージェントを導入する際に必要
- Fit-to-Standard思考:標準機能を最大限活用することでAIの効果も最大化される
まとめ
SAP Jouleは、
- 業務ユーザー向け汎用AIコパイロット
- Consultant・Developer向けエディション
- AgentsやStudioによる拡張
という3つのレイヤーで構成され、業務から導入・開発まで幅広く支援します。
他のERPにもAIアシスタントは存在しますが、
基幹業務全体を横断的にカバーできる点でSAP Jouleは一歩先を行く存在といえるでしょう。
これからのERP活用において、Jouleを理解し業務に取り込むことは企業競争力を高める重要なステップになるはずです。
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