はじめに
SAP S/4HANAの導入において、
近年ますます注目を集めている手法が 「Fit-to-Standard」 です。
これまで多くの企業では、
自社の業務にシステムを合わせるためにカスタマイズを多用してきました。
しかしその結果、導入期間の長期化やコストの増加、将来のバージョンアップでの障害など、
さまざまな課題を抱えてきたのも事実です。
クラウド移行やDX推進が加速する中で、
SAP自身も「標準をベースに業務を変える」というアプローチを推奨しています。
本記事では、Fit-to-Standardとは何か、どのような進め方をするのか、
メリット・デメリット、導入成功のポイントを詳しく解説します。
Fit-to-Standardとは?
Fit-to-Standard とは、SAPが提供する標準業務プロセス(Best Practice)を最大限活用し、
アドオン開発を極力減らす導入手法です。
従来のアプローチは「Fit-Gap方式」と呼ばれ、
標準機能と自社業務の差(Gap)を埋めるためにカスタマイズを前提とするものでした。
対してFit-to-Standardは、まず標準プロセスを確認し、
それに業務を寄せることを基本とします。
言い換えれば、
- Fit-Gap = システムを業務に合わせる
- Fit-to-Standard = 業務をシステムに合わせる
という思想の違いがあるのです。
Fit-to-Standardの進め方
Fit-to-Standard導入の流れは以下のステップで進みます。
- 標準プロセスのデモ確認
S/4HANAの標準業務フローを実際にデモで確認し、業務との適合度をチェックします。 - 差異(Gap)の洗い出し
標準で対応できない業務を洗い出します。ただし、「本当に独自業務として必要なのか」を慎重に精査することが重要です。 - 業務プロセスの調整
可能であれば、システムに合わせて業務を変える。これがFit-to-Standardの肝です。 - 最小限の拡張・開発
どうしても標準に合わない場合のみ、アドオン開発や拡張を行います。
Fit-to-Standardのメリット
Fit-to-Standardの導入には、従来の手法にはない大きなメリットがあります。
- 導入スピードの向上
標準をベースにするため要件定義や開発が短縮され、稼働までの期間を大幅に短縮できます。 - コスト削減
カスタマイズやアドオンが減ることで、導入費用や将来の保守費用を抑えられます。 - 最新機能の活用
標準機能をベースにしていれば、SAPのアップデートをそのまま享受しやすくなり、最新技術をスムーズに取り入れられます。 - グローバル標準化
海外子会社も含めて同じ標準プロセスを導入しやすく、グローバル展開において業務統一が進めやすい。
デメリット・課題
一方で、Fit-to-Standardにも注意すべき課題があります。
- 独自業務が標準に合わない場合
自社の差別化要素である業務が標準に対応していないと、無理に合わせることで現場の効率が下がる可能性があります。 - ユーザーの抵抗感
長年のやり方を変えることに対して現場の抵抗が強い場合、導入が難航することがあります。 - 経営判断の重要性
「業務を変えるか、アドオンを作るか」の判断は経営レベルでの意思決定が不可欠です。
Fit-to-Standardが求められる背景
近年、このアプローチが重視される理由には以下の背景があります。
- クラウド移行の加速
RISE with SAPやGROW with SAPではクラウドを前提とするため、頻繁なアップデートに対応できるFit-to-Standardが必須。 - SAPの戦略シフト
SAP自身が標準ベースでの利用を推奨し、アドオンを減らす方向に舵を切っています。 - DX推進の流れ
業務を標準化し、スピード感のある導入を進めることが競争力に直結するようになっています。
導入成功のポイント
Fit-to-Standardを成功させるには、単に「カスタマイズを減らす」だけでは不十分です。以下のポイントが鍵となります。
- 経営層のコミットメント
「業務をシステムに合わせる」という決断を経営層が明確に示す必要があります。 - ユーザー教育・チェンジマネジメント
業務変更の意図を現場に丁寧に伝え、抵抗感を軽減する取り組みが重要です。 - アドオン要否の判断基準を明確に
「法規制や競争優位に直結する業務以外は標準に合わせる」といったルール作りが有効です。
まとめ
SAP S/4HANAのFit-to-Standardは、
従来の「業務に合わせたシステム」から「システムに合わせた業務」への大きなパラダイムシフトです。
確かに、現場の業務変更やユーザー教育など課題もありますが、導入スピードの向上、
コスト削減、最新機能の享受、グローバル標準化といったメリットは非常に大きいものです。
今後、クラウドを前提としたERP導入では、このアプローチが主流となっていくでしょう。S/4HANA導入を検討する際には、
ぜひ「Fit-to-Standard」を軸にしたプロジェクト計画を考えてみてください。
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